産経新聞では2022年2月のロシアによる侵略開始以降、現地に記者を派遣し、ウクライナ戦争をさまざまな角度から報じてきました。刻々と変わる戦況はもちろんのこと、ウクライナ政府高官へのインタビューや市井の人々の声など、国際報道に携わる記者が自由な感性で取材を行い、意義のある記事を書いてきています。中でも、侵略開始から半年を過ぎたタイミングで始めた連載企画「ウクライナと共に」は、戦争が長期化しても屈しないウクライナ人の強さに迫るなど、記者が独自の視点で各テーマを深掘りしたものとなっており、過去の掲載分を含めて是非、多くの人に読んでいただきたい内容となっています。
ウクライナからのアジア、どう見えているか
取材班の一人である編集局外信部の桑村朋記者は2023年4月末~6月中旬までの45日間、ウクライナの首都キーウや南部オデッサなどに滞在し、被害を受けたウクライナ人やウクライナ側につくロシア人義勇兵など、さまざまな背景を持つ人を取材し、戦争の実相について迫りました。「ウクライナと共に」では第6部「アジアへの視線」を担当し、侵略開始後のウクライナにおける日本、中国、台湾への印象の変化を探りました。
「軍事支援が難しい日本の支援は本当に届いているか」「ウクライナと友好関係にある中国がロシアを擁護する姿を現地はどう感じているか」。連載では、こうした多くの人が知りたいであろうテーマを深掘りしました。中国を取り上げた記事では、ウクライナで親中的とされた団体ですらも侵略開始後、中国に嫌悪感を抱いていることなどを取り上げました。「中国は良くも悪くもこの戦争のカギを握る国です。現地の人々の対中感情を取り上げることは非常に重要だと考えました」と桑村記者は振り返ります。国内外のメディアがあまり取り上げていないテーマでもあり、この記事は各方面から評価を得ました。
左上:キーウに展示されたロシア軍の戦車 右下:ミサイル着弾跡を指さすウクライナの男性
連夜の空襲警報「ロシアンルーレットだ」
ウクライナに入るのは簡単ではありません。桑村記者は、日本からポーランドを経由し、夜行列車でウクライナに向かいました。国境に近いポーランド東部プシェミシル駅では、祖国への帰国を目指すウクライナ難民が長蛇の列を作っており、「いよいよ戦地に入るのか」という緊張感に包まれながら列車に乗り込んだといいます。キーウでは連日連夜、スマホにダウンロードしたウクライナ政府のアプリから、戦争映画などで聞き覚えがある「ウーン」という音の空襲警報が鳴り、数時間後にはロシア軍が発射したミサイルやドローンが着弾、撃墜された爆発音が聞こえる、といった日々を過ごしました。
「みんな顔には出さないが、ミサイルで被弾しないように心の中で祈りながら暮らしている。まるでロシアンルーレットだ」。桑村記者は、キーウで取材したウクライナ人女性が悲し気にほほえみながら語ったこの言葉が印象に残っているといいます。実はキーウなど激戦地から離れた都市では人々は拍子抜けするほど「普通の生活」を送っています。通常営業している飲食店では人々が笑顔で食事を楽しむ姿も見られます。一見、戦地とは思えない光景ですが、桑村記者は「毎日のように死者が増え、毎晩のように警報や爆音で起こされる。戦禍の日常は緊張の連続です。心の中では誰もが恐怖心と戦いながら暮らしています。罪なきウクライナの人々にそんな暮らしを強いる戦争の愚かさを肌で感じました」と話します。
左上:キーウの独立広場周辺で、ウクライナ軍への募金に寄付する女性 右下:地雷除去の現場に同行する桑村記者
日本や世界の課題 報道で解決のヒントを
ロシア軍の攻撃で破壊された黒海沿いのリゾート地、隣国モルドバで親露派が実効支配する沿ドニエストルの周辺地域、祖国ロシアに攻め入ったロシア人義勇兵組織の幹部、ゼレンスキー大統領が信頼を置くウクライナ政府高官…。各地を歩き、多様な人物を取材した桑村記者ですが、実は本来の担当は中国や周辺地域です。大阪本社社会部などで勤務後、2018~19年に会社の留学制度を使い、中国・北京に留学した経歴を持っています。桑村記者は「ウクライナでは現地の言葉が分からない中、通訳と英語などでコミュニケーションを取って取材を行いました。自分のやる気さえあれば、担当に関係なく、色んなことにチャレンジさせてもらえる環境はとてもありがたいと思っています」と語ります。
ウクライナ戦争は長期化しています。ゼレンスキー大統領も常々話していますが、この戦争には「自由や民主主義を守るための戦い」の側面があります。産経新聞の信条も「民主主義と自由のためにたたかう」ことです。今後も現実主義に立ち、日本の国益を考え、権力におもねらない姿勢を忘れず、日本や世界の課題を解決するヒントとなるような報道を続けていきたいと考えています。