産経新聞社

事件・裁判報道ガイドライン

 裁判員制度が平成21年5月から始まるのを機に、日本新聞協会は20年1月、「裁判員制度開始にあたっての報道指針」(協会指針)を公表しました。指針では「公正な裁判と報道の自由の調和を図り、国民の知る権利に応えていく」ことを確認する一方で、裁判員となる国民に過度の予断を与えないよう、取材・報道のあり方についていくつかの点で注意を喚起しています。産経新聞社はこうした協会指針を踏まえ、事件・裁判報道のガイドラインを次の通り定めることとします。

事件・裁判報道ガイドライン(平成21年2月21日公開)

1. 事件・裁判報道の目的・意義と基本姿勢

 協会指針では「刑事司法の目的のひとつは事案の真相を明らかにすることにあり、この点において事件報道の目指すところと一致する。しかしながら、事件報道の目的・意義はそれにとどまるものではない」と指摘。そのうえで「犯罪の背景を掘り下げ、社会の不安を解消したり危険情報を共有して再発防止策を探ったりすることと併せ、捜査当局や裁判手続きをチェックするという使命がある」と明記している。

 裁判員制度下においては迅速な審理が求められることから、裁判による真相解明機能の衰弱化も懸念される。それだけに、犯罪の背景を掘り下げ、真相を追究する事件・裁判報道が果たす役割はより重いものとなる。被疑事実に関する認否、供述などによって明らかになる事件の経緯や動機、被疑者のプロフィル、識者の分析などは事件報道に課せられた使命を果たすうえで重要な要素を成している。

 一方で、協会指針は「被疑者を犯人と決めつけるような報道は、将来の裁判員である国民に過度の予断を与える恐れがあるとの指摘もある」と注意を促している。産経新聞社では平成13年6月に定めた「記者指針」において、「過去においてメディアが無実の人を犯罪者のように扱った苦い経験を教訓として、裁判で有罪が確定するまでは慎重な上にも慎重な立場を堅持しなければならない」としている。

 被疑者段階での「容疑者」呼称、起訴後の「被告」呼称はこうした指針に沿うものであり、以前から「犯人視」しない報道を心がけてきたが、裁判員制度が始まるのを機に改めてその趣旨を徹底する。

2. 供述をはじめとする捜査情報に関する報道について

  協会指針では、捜査段階の供述報道について「供述とは、多くの場合、その一部が捜査当局や弁護士等を通じて間接的に伝えられるものであり、情報提供者の立場によって力点の置き方やニュアンスが異なること、時を追って変遷する例があることなどを念頭に、内容のすべてがそのまま真実であるとの印象を読者・視聴者に与えることのないよう記事の書き方等に十分配慮する」としている。

 配慮の方法としてはまず、できる限り情報の出所について明示することが求められる。情報の出所が警察・検察側なのか、被疑者・被告側なのか、被疑者の近隣住民なのか、被疑者を知る関係者なのかなどを明らかにすることによって情報の位置付けが明確となり、報道に対する読者の受け止め方も違ってくるからだ。

 また、捜査段階での被疑者の供述が絶対的なものではないということを踏まえ、そのことが読者に伝わるように記事の書き方を工夫する。捜査段階で捜査当局が得た証拠や関係者の供述についても同様の工夫が必要となる場合がある。被疑者・被告側の主張についても、可能な限り、取材する。

3. プロフィル報道について

 協会指針は「被疑者の対人関係や成育歴等のプロフィルは、当該事件の本質や背景を理解するうえで必要な範囲内で報じる。前科・前歴については、これまで同様、慎重に取り扱う」としている。事件報道の目的・意義を果たすうえでどこまでが必要な範囲内かは、取材結果に基づいて個別に判断する。報道する場合はできるだけ情報の出所を明示し、被疑者が犯人であるとの印象を植え付けないよう書き方や表現を工夫する。

 前科・前歴についても、事件報道の目的・意義を果たすうえでの必要性を十分検討し、報道する場合は慎重な表現を心がける。

4. 識者コメントについて

 協会指針は「事件に関する識者のコメントや分析は、被疑者が犯人であるとの印象を読者・視聴者に植え付けることのないよう十分留意する」としている。事件報道の目的・意義を果たすうえで識者コメントが必要と判断した場合、「逮捕容疑が事実とすれば」「捜査当局の調べが事実ならば」などと表現を工夫する。

5. 裁判員裁判の報道について

 裁判員の取材について、協会指針は「裁判員法には、裁判員等の個人情報の保護や、裁判員等の守秘義務が定められている。我々は、裁判員等の職務の公正さや職務に対する信頼を確保しようという立法の趣旨を踏まえた対応をとる」としている。

 具体的には(1)裁判員、補充裁判員の氏名、住所など、その人物を特定できる個人情報は原則として報じない(2)裁判員選任から判決言い渡しまで、裁判員、補充裁判員には接触しない(3)裁判終了後、裁判員経験者らの個人情報の報道は本人の意向を尊重する−といった対応となる。

 しかし、裁判員らの違法行為や非行について取材・報道する場合、裁判官による違法な評議の運営などについて取材・報道する場合は例外で、個別のケースごとに検討する。

 公判の取材・報道については検察側、被告・弁護側の対等報道を心がけ、「被告=有罪」を前提としたような表現は避ける。

 以上の点に留意しつつ、事件報道の目的・意義を果たすための取材・報道に尽力する。